こんな狭い村だが人が歩き回るだけなら十分な広さの島
でもあった。
つまり学校から帰るだけでも、バスなどありもしないの
で随分と時間が掛るということになる。
だからまだ学校から家に帰るまでの道の途中だった。し
かし今日起きたことを考え整理するには少し距離が短い
ようにも感じた。
今日は転校生の葵がこの村にやってきた。どこから引っ
越してきたかは不明。両親はいない。理由は「祭」の興
味心から。しかしそれだけではないと思わせる雰囲気が
彼女には醸し出されていた。
本当に興味のためだけにここに来たのか・・・。もう一
度聞いてみたい所だったがしつこいのも変だと思われる
のでやめておこう。きっといずれ分かることだ。
今はそんな彼女の素性よりも考えていることがあった。
それはこの村では決して許されない所業・・・。
何故か俺は彼女を助け出したいと思っていた。理由は自
分でも良くわからない。数時間前にはこれから死に逝く
彼女を哀れんでいたのにだ。
あえて言うのなら彼女の得体の知れない本性に踏み込ん
でみたかったからかもしれない。だが実際のところ俺は
これを機に「祭」を阻止してみたいとも考えていた。
今までこのような志を持つ人もいた。しかし全員が全員、
味方につけようととする相手が間違っていたのだ。だか
らすぐに命を落とす。犬死だ。
しかし俺には対象者がすぐ近くに存在する。つまり彼女
から味方につければ徐々に仲間を増やしていくことも出
来ないかと考えたわけだ。
ただ成功率など無に等しい。なのにこういった考えを持
ち、実行しようとする。明らかに今までの自分とは違う。
もし本気でやってみれば「祭」を阻止することだって出
来るかもしれない。ただそれには相当の覚悟が必要だ。
そして運。俺に成功できるかは分からない。もし出来な
かったとしてもそれで死ぬのは本望かもしれない。・・
・・いや、死ぬのは流石に嫌だな。
ただ遊びとして考えていたようなことが段々と実行に移
そうと考えてるような気がした。既に準備は整えられ後
は自分が動き出せばいいような、そんな気がしてきた。
成功すれば村での生活が快適になるだろう。ただそれだ
けの事。しかし失敗すればその代償は自分の死。
あまりにもそのリスクは大きすぎる。そもそも「祭」を
止めようなどと思うほうがおかしいのだ。自分がじっと
していれば対象者にはされない。何もしなければ消され
はしないのだ。
なのに・・・どうしてこんなことを思いついた?彼女が
来たから?
複雑過ぎる感情が頭の中でごちゃまぜになる。正義感と
親切心と恐怖心と逃避心と。こうやって文字に表すこと
に無理が生じる微妙な感情。何故自分は見ず知らずの転
校生を助けようなどと思うのか。
いや、違う。葵を助けようと思ったのではない。俺は
「祭」の存在を消し去ろうとしているのだ。
もう一度思考してみる。全て終わったときの結果を。そ
れまでの過程を。失敗した時俺はどうなる。考えたくも
無い。どうすればいい。俺は。