7月1日 午前8時30分 其の弐 

「なぁ、どうしてこんな村に興味なんか持つんだ?似た
ような村なら幾らでもあるだろ?」

「うん……特にこの村のお祭りに興味が湧いたからかな?」

 お祭り? そんなこの村独自の祭りなんてあっただろ
うか? 必死に思考を正常にして考える。

「この村にそんな変わった祭りなんてあったかな……?」

「皆噂してるよ。この村は島になって孤立してるからあ
まり噂が流れてこないんだね」

「な…何て……?」

 彼女はまた笑っているだけで答えはしない。全て掴ん
でいるぞというような顔でこちらを笑顔で見つめている。

「何だよ……なんて言われてんだよ!?」

 口調は強めだが焦っていることを悟られないようにす
るのが精一杯だった。――人殺しの村? 今確かにそう
言った。

「はっ……何言ってんのお前……?」

「毎月一人ずつ……でしょ……?」

 確信する。こいつは全部知っているんだ。ならばどう
してこんなところに来るのだ。興味本位で、殺されに来
たのか……?

「ふふ……」

 俺はもはや彼女に何も言うことはできなかった。さっ
きから鼓動が早くなっている。心を落ち着かせてからも
う一度思考する。

 落ち着いて考えてみれば「祭」のことは、この村の人
物もそれ以外の周りの人物にも承知の事実だった。つま
りこの時点で焦る必要全くはないのだ。しかし知られて
はいけないのは既に彼女が今月の「祭」の対象にされて
いるということだ。

 まだ確定してるわけではないがほぼ決まっていること
だろう。と、なると問題になるのは、彼女が「祭」のル
ールをどこまで知っているかということになる。

 最悪、知られてはいけないのは対象の選び方だ。それ
以外は幾ら知られたところでどうにもならない。

 しかし自分が対象にされていると気づかれてしまえば、
それは対象に抵抗の猶予が与えられてしまうことになる。

 そうして「祭」が失敗してしまうことが一番の問題な
のだ。俺は落ち着いて会話を続けた。

「よ、よく、知ってるんだな」

「うん。随分と調べたからね。出来れば『祭』の事詳し
く教えて欲しいな」

「聞いて気分のいいもんじゃないぞ?」

「いいの、知りたいだけだから」

 さっき見せた笑顔とはまた別の意味を含んでいるよう
な笑みを彼女はしてみせた。

「まぁ……別にいいけど」

 人選の基準さえ知られなければどうということはない。
もう聞きたいことは聞いた。適当に済まして縁を切るの
が得策だろう。俺から何か漏れれば大事になるかもしれ
ない。

「ふふっ。ありがとう。えーと名前は何で言うのかな?」

「えっと……結城」

「違うよ。下の名前」

「名前? 紅だけど……何で?」

「これから仲良くしていくんだし名前で呼び合った方が
親近感が湧くと思わない? だからわたしの事は葵って
呼んで欲しいな」

 いつから仲良くするのかが決まったのかは知らないが
別にたったの七日間だ。構いはしない。

「で……わたしの机と椅子はどこの部屋にあるのかな?」

 いつの間にか俺たちは一階まで降りていた。



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