7月1日 午前12時20分 

葵の席は俺の後ろ。つまり教卓側から見て一番右上に有
ることになる。そして授業をぼーっと聞いてるといつの
間にか昼飯の時間になっていた。

「ねぇ紅君?いっしょにお昼食べない?」

突然の誘いだった。俺が悩んでいると彼女は呟いた。

「『祭』の事も知りたいし」

先程と声音が違うような気がしたがそういえばそんな約
束をしていたので今日は葵と昼飯を食べることにした。

昼飯を食べている途中に葵に話したことを要約すると、
「祭」のルールについてだ。

「祭」というのは他の地域で言う盛大なお祭りとは違い
一ヶ月に村人の中から一人を選び消してしまうという人
道を無視した儀式だ。

この「祭」のルーツは全く不明、またこれが行われてい
る理由も分からずあまりにも酷過ぎるから中止しようと
思う人も少なくはないが、基本的に「祭」の対象に選ば
れるのは、村との縁が薄くなっている者、裏切り者、余
所者、そして「祭」に非協力的な姿勢をみせる者だ。裏
切り者と非協力的な姿勢を見せる者は同じようなものだ
がここでは区別しておく。

だから皆心に留めておくだけで不満や反対意見は口に決
して出さない。この事を訴えた人もいるみたいだが勿論
その人物は今ではもう居ない。

しかもタチが悪いのはあまりにもこの村が外界から孤立
している為か「祭」は噂や一種の怪談話となっているだ
けでほぼ誰も信じていないようなものになっている事だ
った。だから葵は村人以外で「祭」の「事実」を知って
いる唯一の人物となってくる。

また噂話で殆どが終結してしまっているため本州からも
遠いこの島に誰も事実を確認しに来ないのが現状だった。

だからこの儀式は止まらず今も続いている。誰もが「祭」
の中止を願っているが誰かが相談すればその誰かは、そ
の一ヶ月の保身の為にその村人を裏切り者として村に売
ってしまう。

だから「祭」は止まらない。

また「祭」が行われるのは7月ならば7日の、8月なら
ば8日の24時00分というようにそのつきと同じ数字
の日に行われる。正確にはその次の日に入った瞬間だが。

つまり今月は後六日で「祭」が始まる。

まぁ以上のことを彼女に話した。勿論対象者の選び方を
除いてだが。

「へぇ全然知らなかった。こっちでは誰も信じてなかっ
たから情報が全然なかったんだよ」

「まぁそうでなきゃ困るけどな・・」

「もしわたしのような人以外の人が来たらどうする気な
のかな?」

「さぁな、俺たちが心配するようなことじゃないからな」

実際これは気になるところではあったが特別気にしてる
わけではなかった。なぜなら不思議と大丈夫な気がして
いるからだ。妙な安心感。これに根拠は全くない。

こんな妙な会話をしながら昼飯を食べ終わると葉月がこ
ちらに近づいてきた。

「紅!ちょっといい?」

「あ、何・・・?」

葉月は妙に真剣そうな顔つきをしていた。言いたいこと
は分かっていた。承知の上でこちらも話しているという
のに。何も分かっていないこいつに無性に腹が立つ。今
仲間割れなどしている場合ではないことはわかっている
のに。

葉月は教室から離れた踊り場まで俺を連れ出しそこで話
し始めた。

「あんたさぁ、あの子に付き合うのやめた方がいいよ?」

「そんなの分かってる、演技だよ・・・」

「あんた・・・それが一番酷いって事分かってんの?」

「しょうがねぇだろうがよ・・・あいつとは今日これっ
きりで縁を切る・・それでいいだろ」

「・・・もしあんたがあの子と『祭』の日まで一緒に居
たら傷つくのはどっちもなんだからね・・!?」

「――っ・・」

心の中を見透かされているような気がした。死ぬことは
決まっているのに・・何故、と自分で自分に疑問を覚える。

「躊躇ってる様だからもう一度言っておく。神崎とはこ
れ以降縁を切りなよ・・・」

俺は無言で彼女に返事すると教室へと戻っていった。思
えば、恐らくあの「意思」は今生まれたものかもしれな
い。それは彼女への意地なのか、それとも俺の奥底に眠
る感情だったのか・・・。もう後悔しても遅かった。



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