葵の反応にはつくづく驚かされるがあの後はこれからど
うするべきかを少し話し合った。だが幸運にも家はすぐ
隣だから連絡はしやすい為、それ以上の話しもせずに終
えた。
自分の家に帰ろうと葵の家を見ると自分の家がどれほど
小さいかが思い知らされた。正直言って前の住人が住ん
でいた頃はそこまで気に留めていなかった。
家に帰ってふと時計に目をやってみると葵と話をしてい
たのにそれほどの時間が経っていないことに驚かされた。
やっぱりアレは何かの錯覚だったのだろうか。
心臓が一瞬どきりとする。自分の家のチャイムの音だっ
た。俺の家は複雑な家庭状況で俺以外に今は誰一人とし
ていない。つまりこの呼び出しには強制的に俺が出迎え
なければならないということになる。先刻のこともあっ
たので俺は正直人目に触れるのが怖かったがこんな狭い
村で居留守を使えばすぐ分かる。
ここは相手の要求に従うしかなかった。そしてもう一度
俺の心を見透かし急く様にチャイムが鳴る。
ドアに手をかける。……!
「やあっ。紅!」
「楓…!?何で…何だよ?」
一瞬事の理解に手間取る。何でこの時間にこいつが来る
んだ?楓と俺の家は結構距離があるはず。用があれば電
話をすればいいのに何で…!?まさか…?最悪のパター
ンが俺の頭をよぎる。
「いやぁ、ねぇ?話したいことがあるんだよ紅にさぁ。」
「な…なんだよ?」
こいつ…!
「さっき葵ちゃんの家で何を話してたの?」
――――!。話してた、これで確信する。こいつは分か
っている全部。知っている上で俺に揺さぶりを掛けて来
ている。だったらどうすればいい?
「別にお前となんか関係のない話だよ…」
ぎっ…。耳に届く不快感のある音。一瞬空耳かと思った
がそれは徐々に鮮明に聞こえてきた。ぎっ…。ぎり…。
「紅…。あんたは…」
声の感じがさっきと変わる。そして楓は続けた。
「もう一度聞くよ。何を話してた?」
今まで聞いたことのないくらい低い声だった。感情が無
いともいうか冷めているというか、ともかく今までの彼
女のイメージからは到底かけ離れていた。
しつこいので語気を強めて追い返そうと思った。こいつ
にも、誰にも打ち明けるべき段階ではない。ここは楓に
立ち去ってもらおう。
「だから、お前には関係のない話だって言ってるだろ!」
『関係が有るから聞いてるんでしょう?』
「――――――ッ!?」
しっとりと落ち着いた声だったが、思わず身をすくめて
しまうような声。全身を決して気分のいいものではない
鳥肌が駆けていく。
楓の口から息が漏れ言葉を紡ぐ。
「葵ちゃんから全部聞いたよ。全部。すぐに話してくれ
たさ。あんたら『祭』を潰そうとしてるんだって?あん
たも良く考えたよね、対象者を最初の味方につけようと
考えるとはね。まぁそれは正しいよ。今まで味方が悪く
て裏切ったものは殺されていったのは明白だからね。で
もそれは大人の世界。どうしてさあたしらを頼らないの
さ?この十何年間今まで全く変わらないメンバーで過ご
してきた。それが信用できないって言うの!?」
声の調子と雰囲気が今までと同じような彼女のイメージ
に戻っていた。あまりの変化に俺は唖然とさせられてい
た。
なぜなら今までの一度でも彼女はこんな態度を見せたこ
とが無かったからだ。
ずっと小さい頃から今まで、一度もだ。だからこそ俺
はやっとのことでしか返事できなかった。
「それって…どういう…?」
「『祭』なんて誰だって嫌に決まってる。でも……あた
し達なら出来るんじゃないか…?」
「じゃあ…楓は…」
「手伝うよ。あたしも…!きっと皆だって協力してくれ
る…!」
だがやはり大衆の前にこの考えを晒すのはあまりにも危
険な行為だ。それだけが唯一の問題だった。
「でも…俺はそれは時期を見るべきだと思う」
「そりゃあそうだけどね…でも、あたしは信用してくれ
て構わないよ。この村を止めてやろう」
「……そうだな」
これは偶然なのか、物事が作られているかのように早く意外にも最初は良好に終わりそうだった。もしかしたら
これは本当に成功するかもしれない。俺はそんな希望を
抱いてしまっていた。
だが最後まで楓はあの強かな態度の理由を明かすことは
無かった。