昼食の間、ごくごく一般的な学生たちがするような話を、
俺たちはしながらこの三人だけに訪れている重い空気の
中、昼食をとっていた。と、いってもそんな空気の中で
話が長く続く筈もなく、他のグループとは打って変わっ
て沈黙が続く食事となった。
そんな気まずさの中食事を終えると同時に、同じように
食事を終えたと思われる各務がこちらに向かってきた。
彼からは妙にぴりぴりとした印象を受けた。
「紅。話がある。来てくれ。」
「信司…?」
こんな疑問的な言葉は形式的なものであって、全く持っ
て意味などない。正直言って各務から何か重大な話をさ
れる謂れは無かったが、それゆえに気になる為とりあえ
ずついていくことにした。
各務に黙ってついていくと、どうやらあまり人気の無い
上の階に行くつもりらしく、階段へと向かって廊下を歩
いていった。
こうしてみるとやはり、各務の方が俺より身長は少しば
かり大きかった。因みに各務はメガネをかけている。ど
うやら伊達ではないらしい。
上の階に着くと各務は足を止めた。そしてこちらを向く。
彼の目は鋭く、刺されたような痛みを伴いそうな、そん
な眼差しだった。そして彼の口が開く。
「何のつもりだ…?」
ぼそりと。小さく彼は呟いた。しかしそれは明らかに、
目の前にいる俺に対して向けられたものだった。今の言
葉に俺の思い当たる節は無い。各務に対しては。
「何の事だ?」
「とぼけるなよ、紅。分かってるんだ、こっちは。」
各務は淡々とした口調で俺を問い詰める。最悪のケース
を頭に浮かべる。漏れていたら…どうなる?
今、こちらからは決して喋らない方がいい。各務が本当
に事を分かっているかが問題だ。
「何を分かってるって?」
一方的に問い詰められているような気がしたので、自然
と口調が厳しくなる。
「それはお前が一番良く分かってることじゃないのか?」
やはりだ。こいつが自ら喋らないのは何も分かっていな
い証拠。知っていればここまで自白させようとする理由
がわからない。
「そうだな。だがお前には分からないだろうな。」
「何だと?」
「お前が自分から喋りださないのは実は何も分かってい
ない証拠だ。どうしてこうも突っかかる?俺がお前に何
かしたかよ?」
ここでもう各務は黙るだろうと、鷹をくくっていたが意
外にも各務は言葉を紡いだ。
「神崎の事を持ち出しても分からないか?」