7月2日 午後1時00分 其の弐 
 

 何? 神崎? こいつ知っているのか、知らないのか、
どっちなんだ? アタリをつけて喋っているだけなのか
?いやそれなば理由が見当たらない。何故こんなことを
してくる各務。俺は挑発的に、

「さぁな。分かるように喋ってくれよ」

「お前は村を裏切った。神崎は知った。自分が死ぬこと
を。お前の口からな……。そうだろう?」

 各務は淡々と事実だけをかいつまんで、話した。確か
に各務が本当に事を掴んでいるのはわかった。なら何故
自分から話すのをためらったのか。今度はこちらが聞く
番だ。

「知ってるならなんで俺に言わせるように仕向けた。」

 少しの間があったような気がした。その間各務は、
こちらをじっと見据えている。

 それは何故か、葵を連想させた。昨日葵の家に行った
時。その時を思い出させた。あの時の様に鼓動が早くな
り、各務の言葉を遮られそうになる。

 昨日のように俺が何かを告白する場面でもないはずな
のに、俺は各務の次の言葉を待っているだけなのに、心
がぐっと締め付けられるような、そんな錯覚に陥る。

 そしてようやく彼は話し始める。

「誰かにいわれやしなかったか? 自分を信じろって」

「え……?」

 そうか。そういうことか。簡単過ぎる。昨日と同じこ
と。どうして気づかなかったのか。いくら自分を問い詰
めても、答えは出ない。

「相当気に病んでるみたいだな。紅。」

「あ、あぁ……。なんだろうな……、最近おかしいみた
いだ」

 乾いた笑いが口から漏れる。最近といっても、いつか
らは明確には分からない。葵が来てから? それ以前か
ら? 所詮同じこと、答えは出ない。

 そうだ。たったこの二日で俺は相当なストレスを溜め
込んでいるだろう。当たり前だ。いつ、どこでこの情報
が漏れてもおかしくはないのだから。そして俺がそのま
ま消えてしまうことも。まだ二日、なのに―――。

「紅。俺達を頼ってくれよ。今までを思い出してくれ。」

「……俺は。」

 信司に返す言葉も見当たらず、俺の中では何かが壊れ
ていった。



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