7月2日 午後3時00分 

 信司が仲間に加わり密かに「祭」に反抗するものたち
は増えていた。そして俺も仲間という存在を噛みしめ、
信じるようになってこれていた。恐らくこのままで構わ
ないのだ。仲間を信じ、「祭」に立ち向かう。もはや後
戻りは出来ない。これこそが今の最善。今出来ること。
覚悟は決めた。だから信司の提案にも乗ったのだ。


「お前……それマジでやるのか……?」

「ああ、本気だ。もう時間が無いんだろ?」

「そうだけどよ……。」

「お前はあまりに人を信じなさすぎだ。さっきも言った
だろ。」

 最後の授業が終わってから教師が来るまでの少しの間、
俺達は四人で「祭」についての話し合いをしていた。そ
こで信司がある提案を持ちかけてきたのだ。

「この際クラスの奴には全員に一気に言っちまおう。」

 一瞬何を言われたのかよくわからず唖然としていたが
すぐに葵が俺の目を覚ましてくれた。

「それって物凄く危険なことだと思うけど……? わた
しは……。」

「でもあたしはいいと思うけど? 今まで皆代わらない
メンバーだったし、皆信用できるよ。」

「確かに危険だが確信はある。皆は絶対裏切らない。意
味なんてないからだ。もしここで一気に味方が増えれば
効率はかなり良くなるはずだ。それに全員が同じ事を言
い出せば、誰を『祭』の対象にすればいいか分からなく
なってくるだろうしな。」

「ん……確かにそうだけど、紅君はどうするの?」

 いきなり話を振られてとっさに返事をすることが出来
なかった。もう信司を味方につけてから既に三時間は経
っているはずなのに、まだあのときの感じが残っていた。

「えっと……どうしようか……。」

 口先では少々戸惑いながらも、この件に関することに
ついては、もう頭の働きが慣れてきた。

 信司の言っていることはかなり危険な賭けであると同
時に、成功さえすれば自分たちに対する利益はかなり大
きいものとなる。しかしそれに釣り合わされる対価は自
分の命。いや下手すれば四ヶ月かけてこの四人が殺され
てしまう可能性は十分にある。もはやこれは俺の命だけ
でどうにかなる問題ではなくなっているのだ。ならば、
ここまで来てどうして後戻りなど出来ようか。

「皆……もう俺たちは後戻りなんて出来ない状況にある。
だから……俺に命を預けてくれ。」

 人生の中でこんな台詞吐くとは思わなかった。もう絶
対に言いたくないが……言うことになるのだろうか。
ふと、心に 妙な余裕が出来ていることがわかった。俺が
頼っている仲間のおかげか。理由はよく分からない。

「紅君がそういうなら……。」

 今までは微妙に反対な立場に居た葵も俺が賛同したと
みると意見を改めた。やはり俺がこの中では主導権を握
らなければならないらしい。それは、俺達の仲間を統率
する力を身につけなければならないということになる。
そろそろ本当に覚悟を決める時がきたようだ。俺はこれ
を通して、上としての覚悟も決めなければならない。そ
れは言葉上だけでのものではもう許されるものではなか
った。

 俺たちは教室へと向かいそして教壇の上に立つ。まだ
教師が来るには時間がある。それだけを確認し、俺は騒
々しさに満ちた教室を静めるように、声を響かせた。

「皆! 聞いてくれ!」

 俺たちを抜けば、このクラスの生徒の数は十数人にま
で減る。だから少し誰かが声を張り上げれば、それは教
室中に届くことになる。それに、普段俺は学校であまり
大っぴらに話すことはなく、大声を上げたことも無かっ
たので、それが逆に役立ったのかもしれない。いずれに
せよ、一回で周りが俺たちに注目してくれたのは好都合
だった。

「放課後皆に話があるんだ。だからHRが終わっても帰
らずここに残ってくれ!」

 皆何事かとこちらを凝視していたようだったが、俺は
特にそれを気に止めはしなかった。しかし、その視線の
鬱陶しさを払いのけるように続ける。

「以上だ。わざわざ悪かった。」

 それだけいって俺は席へとついた。だが、今考えると
非常に軽率な行為だった。



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