教室で葵と話しこんでしまったこともあり、結局家に
着くのは大分遅い時間となってしまった。だがこの時期
だからか、まだ日は昇っており、未だ昼のような空を映
していた。
学校を出発した後の帰り道を行く。そして家についた
頃には、あの黒い殺気は俺からは全くなくなっていた。
今思ってみれば、あの状態がおかしいのは一目瞭然だっ
た。
だが、俺をあそこまでの狂気に駆り立てたのは何か、
それを知る術はもう残されてはいない。それを知ること
が出来たのはあの時だけだっただろう。
しかし、頭の中ではそれはおかしいと否定し、いくら
考えてもそれ以外の方法は全く思い浮かばなかった。
やはり、そうなのかもしれない。それしか残されてい
ないのだ。知らず知らずして俺は精神的にも追い詰めら
れているのかもしれない。ならばどうするか。
足掻いてみせる。こんなところで死んでたまるものか。
一度阻止すると決めたからには、やり遂げてみせてやる。
その為には如何にして「そいつ」を炙り出してやるか。
これは、当の本人には知られないように行うのが一番望
ましい。なぜなら、もしそれが本人に知れてしまえば俺
たちに対する、防衛策をとられるかもしれないからだ。
下手すればそれはかなり強固なものとなるだろう。だか
らこそ、これから俺たちの行動は慎重に行なわなければ
ならない。
では、何を慎重に行うか。方法はまだ思いつかない。
一人ずつカマをかけていくのは確実だが、一番危険なも
のだ。徹底的に絞ってからでなければそれは行えない。
だが、幸いにしてこの学校の一クラスの人数は少なく、
大体十数人。このとき初めて少人数をありがたく思った。
ただ、違和感があった。だがそれを認めてしまえば、
俺はその次にあるものを認めなければならない。俺には
それが出来ない。あまりにも辛すぎる。
七月二日。その時彼等に感じたものは、確固たる意思、
団結だった。九条を初めに他のもの達も、段々とそれに
加わり組み上げられていったもの。俺は間違いなくそう
感じた。
なのに、それはたった一日で崩された。あり得なかっ
た。俺が昨日感じたものは、嘘で作り上げられるような
ものではなかった。なら、それを崩すには外部からの圧
力、力が必要だ。つまり俺が言いたいのは。
クラスに公表するよりも前。すなわち七月一日からその
時までの間に俺たちの思想を知った者達の中に、俺を陥
れようとした奴がいるという事――。
葵、楓、信司。その三人。俺の示した仮定は、この三
人の中に、俺を陥れようとした奴がいるということ示し
ているのだ。
自分の持つ確固たる確信が、逆に自分自身の首を絞める。
なんと皮肉なものだろうか。どちらかを信じるためには、
どちらかを疑わなければならないのだ。だが、疑う方もす
でに決まってしまった。
俺は耐えられるのだろうか? このジレンマに。これ
はあまりにも辛すぎるのではないか。そう、自問自答する。
「ッ……クソっ……!」
どこからゆがみはじめたのだろうか。