朝は夢か現実かの区別もつかずに起き上がってきたよ
うな気がした。辺りを見回し、隣に置いてある時計を見
る。何故か目覚ましの設定はしていない。もう体のリズ
ムが慣れてしまっているからなのだろうか、全くもって
必要性がなくなってきているといえる。
体を起こそうとするが、まだ頭の方がぼうっとして思
ったように力が入らない。何とか立ち上がると、精神的な
疲労からか妙な立ちくらみをした。自分の部屋の壁に手
をつき、体制を崩すまいとする。
相当のようなものだな……。自分から見ても分かった。
だがこれくらいの辛さは昨日までの自分なら覚悟してい
たはずだ。今更こんなことでやめるわけにはいかない。
もはや俺はクラス全員の命を背負っているといっても過
言ではないのだ。
しかし、それが俺の重みであり覚悟でもある。なけれ
ばならないがないほうがいい。そんな微妙な位置に置か
れている。
さて、もうこんなことを考えている暇は無い。とっと
と学校へ行く準備をしなければならない。時間は無駄に
使えば一生帰ってこないのだ。これからの戦いは俺たち
が子供という弱い立場にある以上、時間を武器にして動
かなければならない。時には慎重に、時には大胆に動き、
仲間を増やし敵を減らす。
恐らくこの作戦は俺たちの敵という関係の存在には、
気づかれていないだろう。だから俺たちが今行っている
駒取合戦は一方的なのかもしれない。だが、村の殆どが
最初から敵の手中である以上俺たちは手加減などしてい
られない。命をかけて本気で挑まなければ。
こちらは個の集まりなのに対し、あちらはこの場での
全といってもいいくらいの勢力だ。まずこの一週間をど
う戦い抜くかが鍵だ。誰かが下手をすればすぐにこちら
の陣営は崩れてしまう。俺の統率力も測られてくるわけ
だ。ますます気が重くなる。
これ以上気を滅入らせても仕方ない。居間のある、一
階に降りて俺は学校へ行く支度を始めた。
朝食も食べ終え、もう学校へいつでも行けるようにな
った頃、昨日と同じように玄関のチャイムが鳴った。そ
の音はひっそりとした家にすっきりと響き渡った。心地
良い。もう少し長くその音の余韻を楽しみたかったが、
第二波が来たところで俺は玄関へ向かった。
ドアを開き葵を見ると同時に、家全体にこもりきった
空気が朝の涼しい空気と入れ替わる。まだ小さな村特有
の七月の肌寒さを、半そでの制服で感じながら彼女と軽
く挨拶を交わす。
「よっ。」
「おはよう。」
昨日と変わらない彼女の、奇妙さを感じる笑顔。何故
か俺は、それを素直に見ることが出来なくなっていた。
その裏を暴いてみたい。そんな衝動に駆られる。全く、
バカなことを考えていると自分でも思ってしまう。
「どうしたの? 早く行こう?」
彼女の声で今日二度目の目覚めをむかえたが、そんな
に悪い気分はしなかった。見上げると今までに類を見な
い清清しい空が、そこにはあった。