7月3日 午前12時30分  

 夜が更け、窓から聞こえてくる音も虫の音だけになっ
た頃にも関わらず、俺はまだ寝付こうとは思わなかった。

 考えなければならないことが多過ぎるからか、それと
も惰性的な眠りを拒み続けているからなのか。

 普段なら虫の音は俺の眠気を促進させてくれるにも関
わらず、今日のそれは逆に俺の集中力を妨げるものでし
かなかった。しかしそれに怒りを覚えることは無かった。

 自分が今、考えなければならないことの優先順位を付
けてみようとするものの失敗する。 試そうとすれば思念
のピースが頭の中ではじけてしまい、それらを並べるよ
りも前にそれを拾い集めることによって、その場は崩れ
てしまうのだ。さっきからそれの繰り返し。もはや自分
で自分を呆れることもなくなった。

 いっそ考え方から変えてみよう。一番自分の気なって
いることから解明してみよう。最初からそうすればよか
ったものを、何故考え付かなかったのか。まずい、思考
がそれる。そんなことはどうでもいい。

 自分が今気になっていること……。なんだ。そう意識
的に考えてみると不思議に思い浮かばない。

 違う。ある。目を背けるなよ。今まで自分が最も気に
していたことではないか。

 神埼葵。何なんだあいつは。たかだか二日で人一人理
解出来ようなどとは思っていないが、逆に二日でここま
で分からないことだらけのやつも見たことが無い。

 今日のもそうだ。忠告のようで自己主張のようなどっ
ちつかずの言葉。考えれば考えるほど分からない。発言
の意図が。彼女の正体が。分からない。分からない。分
からない。

 彼女から感じたあれは一体なんだったんだ? 恐怖?
 狂気? 覇気? 圧力? 段々と頭の中で感情のわだ
かまりが出来てくる。こんなことなら最初からありのま
まの自分を見せてくれればよかったのに。

 どうして彼女は隠そうとする。何のために。どうして
こんなところに来た。

 次第に思考が定まらなくなってきた。先程とは打って
変わって考えることが面倒になってくる。しかし葵への
探究心は止むことを知らなかった。

 今日はもう、寝た方がいいのか。そうだな。そうしよ
う。休むべき時間に休まないでどうする。



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