7月4日 午後4時00分 其の弐 

「『祭』のルール……」

 先程の表情から打って変わって、葵の顔が引き締まっ
た。彼女が見せるこの表情も、彼女の魅力を引き立たせ
るものとなっているだろう。

 だが、それは彼女の本質には届かない。この村の根底
に蠢くものに負けない狂気めいたそれこそが、彼女の本
質なのだと俺は思っている。ただ、確証など存在しない
が。

 彼女の表情は段々と緩んでいき、次第に何かを考える
ような顔つきへと変わっていった。今まで自分が培って
きた知識を思い出しているのだろう。ここはじっと待っ
ていよう。

「例えば……何を聞きたいの?」

 待とうと構えていた矢先、唐突に葵が切り出してきた。
だが、何といわれても困ったものだ。俺が「祭」のルー
ルを知りたいのは、本番の際の場所を決めるためだ。そ
うだな、なら、どういった経緯をたどって「祭」を行う
か聞いてみよう。

「じゃあ、どんな感じで『祭』をやってるか分かるか?」

「待って。最初から説明するから……」

 大分時間がかかるようだ。いや、そうみせかけてかも
しれない。ん……今のは俺の勘違いか。まぁいいか。

 しっかし、あまりこちらにはこないから妙に新鮮な気
分だ。代わり映えのない景色といった感じは無い。当た
り前か。やはり久しぶりに見るものはやはり感じるもの
が違うな。うん。改めて緑の良さというものを感じる。
不思議と癒される気分だ。

 この、段々と歩き進めていくと現れてくる、木々の隙
間からの木漏れ日がいいのだ。都会の方に住んでいるも
のにはこの光景がわかるまい。

 しかし……。なんというか。さっきから自分がやけに
年寄り臭いなと思えてきた。精神的に参ってるせいか?
 だから今まで求めなかった癒しなんてものを、この自
然の中から探しているのかもしれない。全く、嫌なもの
だ。

 いつの間にか登り道に差し掛かっていた。それはすな
わち先程言った、神社への道ということになる。

 途中に曲がり道などはあったのだが、それは登り坂に
差し掛かるまでの話で、こうなるともう直線の道だ。別
の道にそれることも出来ない。ていうか、そろそろ辛く
なってきた。まだ葵はうんうんと唸りながら考え込んで
いる。そんなに深いものなのだろうか? 面倒なことに
なりそうだな。

 ていうか、何で、こいつは、こんなにも、涼しい顔で、
この登り坂を、登ってるんだ。こんなにも体力がある奴
だったか? 結構、歩いて、きているはずなのに。流石
に悔しい。

「なあ。そんな多いのか?」

 疲れては来ていたものの、しびれを切らしたので頑張
って聞いてみる。

「えっ? うん、まぁ……」

 曖昧な返事だ。なんだというのだろう。

「話せそうか?」

「一応。聞く?」

 ようやく情報を得られそうだ。しかし、今までのこと
を踏まえてみると大分長くなりそうだな。覚悟しておく
べきか。

「あぁ頼むよ」

 木漏れ日はあれども、夕方に近づいてくる初夏の肌寒
さは、細身の俺には少し厳しかった。通常の寒さから来
る、全身を駆け巡る鳥肌は何故か今までのことを、やん
わりと思い起こさせてくれた。それはまるで、気味の悪
い予言のようなものでもあった。



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