つらつらと、歩きながら葵の話を聞いていたのだが、
思っていたよりも長いものではなかった。もう一回要点
を聞き直せば覚えきれるだろう。
しかし、一般的な話の長さと比べれば、それは十分な
長さであったと思う。なぜなら、本題に入る前の導入部
が多すぎたせいだからだ。「祭」のルーツはなんたらと
か、何のために行われているのだとか、結局結論の出な
かった話をいくつもしていた。
そのおかげで一度に覚えきれる量を超えてしまった。
全く、熱心すぎるのも考え物だな。俺が聞きたかった部
分は全体の三分の一くらいだろう。まぁ、俺が聞きたい
と言ったので仕方ない所もあるのだろうけど。
「お前が目指してたのはここだったのか?」
「うん。一度見ておきたかったの。それに……」
この状況を説明すると、つまるところ俺達は葵が例の
話をしている間に葵の目的地に行き着いてしまったとい
う事だ。その目的地というのも、さっき思い描いていた
この島唯一の神社。
その名も穂積神社。先程まで歩いていたような、木々
が道を取り囲む場所とは違い、ここは大分開けている。
因みに、穂積というのはこの神社の神主の苗字だ。そ
して、確かこの村の村長だったような気もする。
あまりにも安直過ぎる名付けのような気もするが、こ
んなものでいいのだろう。祭る神もいないのだ。ならば、
何故こんなところに神社などが存在するのか。それはと
いうと――、
「ここから『祭』が始まるのか……」
「そう。ここから『祭』を実行する者達が出発らしいの。
たとえ、誰が、村の、どの場所にいようと」
そう、ここから「祭」が始まるからだ。それがこの神
社の唯一の存在理由。思えばそう考えるのが一番自然だ
っただろう。だが、それを微塵も感じさせないとは。逆
にすばらしい。
「ここに着いたって事は、ここに来る予定だったのか?」
「そう。一度見ておきたくてね。『祭』が始まる場所を」
「お前なぁ……」
ここは観光名所じゃないんだぞ、出掛かるが口をつぐ
む。神社に気のせいか人影が見えたからだ。気のせいで
はない。徐々にはっきりと見えてくるそれは――。
「……紅君。あれは……誰?」
「穂積さんだな。神主さんだ。一度会っておくといい」
「あ、うん……」
どうしたのだろう。不意に葵のまとうものが暗くなっ
たような気がする。
「どうした?」
「え? なんでもないよ」
頭の上に疑問符が乗った感じだ。まぁいいか。本人が
そう言っているのだし。それよりも「挨拶」だけはきち
んとしておこう。
「こんにちは穂積さん」
俺は箒を持って出てくる穂積さんに声を掛けた。どう
やら回りの掃除をするらしい。この季節だから落ち葉な
どは殆どないが、若干地面が荒れているような気もする。
「やぁ、結城君」