7月4日 午後5時00分 其の弐 

「さっ……き。九条と話してきてたの」

「九条? まさか……確認を!?」

「……うん」

 彼女が話し始めたことは予想とは異なっていた。だが
俺は、それがあまりにも危険なことだと、そう思った。
下手すればそれは――、

「お前っ! 勝手に何を!」

 俺は、立ち上がり、叫んだ。

 最近多い。衝動からなる行動。今もそうだった。体中
を根拠の無い不安と恐怖が駆け巡り俺を飲み込んだ。

「分かってる! 分かってるけど……!」

「何が分かって……!」

「危険な事だって、分かってたけど! た、確かめられ
ずにはいられなくって……」

 段々と楓の語尾が下がっていくのが分かった。それに
つれて俺も心を落ち着かせる。

「……で? その結果どうだったんだよ?」

「やっぱり私の思い過ごしだったみたい」

「そう、だったのか?」

 安心感からか心に少し余裕が生まれ、声も間の抜けた
ものとなった。何だろう。この妙な空虚感は。

「うん。だからそんなにカッカしないでよ」

 感情を爆発させた際に顔が紅潮した感じがしていたが、
今はそれ以上になってしまっている気がする。勝手な早
とちりを謝るかのように頭をかくしかなかった。

「わ、悪い」

「まぁ、分かってくれたら良いんだけど」

 下手に出た俺に少し強く出ている楓が少し憎らしかっ
た。だが、そんなのは昔からのご愛嬌。気にも留めない。
そう昔からの。

「じゃあ、九条は候補から外れたことになるな」

 一先ずここは話を進めることにした。今は、昔のこと
などどうでもいい。

「候補に、入れてたの?」

「まぁ一応な。あらゆる可能性は考慮すべきだしな」

「そっか……」

 気のせいだろうか。楓は少しうれしそうな顔をしてい
る。自分の意見が採用されたからか? その思考回路に
思わず、鼻で笑いたくなる。実は、俺は楓のことが嫌い
ではないが、一時期煙たいとは思っていた。

 その時の執拗なまでの彼女のコミュニケーションは、
常軌を逸していたとも言える。流石にそれは言い過ぎな
のかもしれないが、俺の基準で言わせてもらえばそれは
十分いきすぎの部類だった。

 今になって昔ことを思い出す。どうしてだろうか。今、
自分が昔のような事を楓に対して思ったからだろうか。
正直思い出したくはなかった。

「私のこと、少しは信じてくれたりした?」

「そうかもしれないな」

 また前のような感情がぶり返すのだろうか。できれば
そういった感情は抱きたくなかった。良い気分はしない。
だからやめてくれ楓。

「ありがとう」

 その言葉を聴いたとき、彼女の顔は何故か、とてもう
れしそうで――、俺はとても、不快になった。まるで昔
のように。

 そうだよ楓。笑っていたのは――、お前だけだった。



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